【欧宝体育投注下载 健康社会戦略研究所】石井正三所長寄稿『新型コロナ新しい日常New Normalと大雨被害』

『新型コロナ新しい日常New Normalと大雨被害』(2020年7月7日記)

欧宝体育投注下载 健康社会戦略研究所 所長 石井 正三

 

昨年武漢市でその邪悪な性質を現した新型コロナウィルスCOVIT?19は、7月1日過ぎたところで、世界で感染者1,000万人死者50万人を超えてなお増加傾向と報じられている。しかも今年前半の世界中における多大な努力にも関わらず、その完全な封じ込めに成功したと言える国は余りない。南米やアジア?アフリカでの流行は更に猖獗を極めていて、先進国においてもかなり流行を減らしたと思うとまたクラスターが発生して努力の結果が振り出しに戻っている現状となっている。おそらくその実数はもっと大きくてつかみ切れない状況もあるのだろうと推察される。

 

それなら私たちの努力は、シーシュポスの神話のごとく、閉じた輪の中での終わりのない無益な努力を繰り返すような作業なのかどうか、そしてもう始まりを迎えている新しい日常New Normalとは具体的にはどのような状況なのか、考えてみよう。

 

疫学の医学史の中でみれば今回のコロナウィルスの状況は、およそ100年前の1918年から1921年まで足掛け3年にわたって世界中で流行したインフルエンザ?いわゆるスペイン風邪に比定して考えることができる。もっと最近なら、1981年アメリカでの報告以来世界を震撼させたヒト免役不全ウィルスHIV/AIDSの流行がある。こちらは同性愛者間や血液製剤由来の伝播など様々な感染様式をとりながらゆっくりと世界を巻き込み、感染者数を増やしながら致命的な疾病という邪悪な顔から次第に穏やかさも入った風貌に変わっていく(「感染症と文明―共生への道」/山本太郎/岩波新書2011年)。これらの経過は一連の著作に詳しいが、感染症は何処かで次第にヒトへの有害性を減じて、これまでのところ、ヒトのつくる社会コミュニティに次第に埋没していくパターンをとる。ヒトの免疫機構/免疫細胞を侵すHIV/AIDSでさえ人類を地球上から消滅させる事態は起こしていない。

一層激越なエボラ出血熱などにおいては、感染性以上に感染者を死に至らせるスピード感と激しさゆえに、実効再生産数が減少つまり新規の感染の機会を失ってやがて流行の消退を迎える。私たちが知っている現在の人類の文明においては、終わりのない感染症は無いし、朝の来ない夜は無い、と今のところ言えるだろう。

 

適切なワクチンの創出と世界的な接種システムの推進によって、私たちに見える世界から駆逐できたと考えられているウィルス感染症は、天然痘など、ごくわずかである。しかも本当にそれが完全に地上から駆逐されたと言えるのかどうかは、定かではない。思い出されるのは、WHOの天然痘撲滅宣言が出された後1980年代パキスタンの街角で信号停車しているタクシーに乗り合わせたときに、小走りで新聞を売りに来た幼い少女の顔に多数のアバタ痕を見出して私自身愕然としたことがある。一瞬のすれ違いだったが。

ジャングルの奥地などに潜む人獣共通感染症のリスクを否定しきることはできない。最近では深海や地下世界にもおびただしい微生物が発見されているし、例えばシベリアの永久凍土が溶け出している中で、いつの時代にか封印されていた邪悪な病原菌が氷の中から目覚め出す可能性も、ゼロではない。

細菌感染症との闘いにおいては、抗生剤の発見によって一旦は抑え込んだかに見えた状況が、耐性菌が出現してその耐性を細菌間で情報交換行っているという現象と新しい抗生剤の創薬に必要な時間と資金が間に合わなくなりそうな人間側の事情に照らして、かなり危うくなっている。(「抗菌薬が効かなくなる」/忽那賢志?井上 肇?長谷川 学ら/丸善出版2018年)

これらを含めて、私たちが暮らしている現実世界では、おびただしい微生物にまみれながら、それらと共生して暮らす多細胞生物としての存立を維持しているのが人類と考えるのが現実的なのだ。

 

これは今回のコロナウィルスの場合にも、当てはめて考えることができるだろう。

 

手洗いやうがいにマスク着用をして、社会的距離を守り、不要不急な外出を控えることが推奨されて、海外との渡航を大幅に制限、社会的活動全体を80%以上まで大胆に抑制して全力でコロナウィルスを押さえ込もうとしたのが今年前半の努力であった。それによって、人口密集地である大都会と北海道など一部の地域を残して、大規模な流行と患者の爆発的な発生は抑え込むことができた。一時は崩壊の危機が叫ばれた医療機関の逼迫していた実情も緩和され、地域医療の状況は大分改善したと言える。しかしながら、それでも新しい感染者の発生をゼロまで根絶やしにすることはできなかった。

一方で、このまま厳しい自粛を継続していると、観光や外食産業を始めとして経済活動が軒並み損失を抱えてしまい、社会活動が困難となるところまで来てしまった。経済活動が継続できなければ、社会を維持することが困難となり、社会保障制度も持続困難になってしまう。医療や介護を含めた社会保障の継続を図るためには原資を生み出す経済は必要であり、その一方で社会保障制度を含めた社会の安定無しには安定した経済活動が維持できないのだ。国や社会の未来をつくる教育では、これらの認識を共有することも大切なことだ。

 

このため方針を転換して、社会活動の規制を段階的に緩めて再開し始めたところ、1日の感染者数は再びジワリと上昇してきた。冒頭に述べたように、海外の状況はもっと深刻なところが多いようだ。それがいつ日本国内に波及して新たなアウトブレイクを引き起こすのか、注視し続ける必要がある。

呼吸器症状の重症化には集中治療室ICU管理や体外式膜型人工肺ECMOを活用する方式が有効ではあっても、特効薬は未だ確定されずワクチンによる予防策も当面期待できない。私たちが持っている対応策として、社会全体が取り組んだ感染予防のマスクや三密を避けるなどの方法論をやめる訳にはいかない。感染が懸念されている地域や店へのアプローチを控えることは、感染が集中するクラスター対策と同様に適正な情報開示などの方法論と共に必要になるかもしれない。

国内ではノロウィルスの散発的な流行が起こり、中国で新型のインフルエンザが確認されたり、アフリカでエボラ出血熱の流行が漸く終結を迎えたりしている。感染症との闘いでは、地域社会としても国としても、衛生的なレベルを上げながら社会における経済活動を日常的に維持して、息の長い対応を継続していく必要があるのだ。

 

未だ遠く困難な道が続くことを共通認識にすれば、医療や介護の専門職としては、平時における住民の健康=地域医療コミュニティヘルスをしっかりと守る立場をおろそかにすることはできない。もう一方でそれぞれの立場でコロナ対策のスキルを上げて社会を守る気概も大切だ。経済的損失補填の是非は、その地域医療における信頼性が前提であるからだ。

未知の部分が残るにしても、住民や行政と共有化したスキルを持って、平時の医療の継続と時々オーバーシュートした感染に対する臨機応変な反応、というような息の長い対応が求められている。

 

九州中心に降り始めた豪雨は各地に進展しながら続いていて、この状況は通常の梅雨とは全く違う様相となっている。いわゆる梅雨前線は、中国長江中下流沿いから繋がっていて、既に中国長江流域に記録的な大雨被害をもたらしている。中国の三峡ダム工事で巨大なダム湖出現したための降雨量増加の可能性も指摘されたりしているらしい。その北方にあるロシアでは、これまでにない高温と永久凍土の融解や広範な山火事が報道されている。何れにしても世界規模の気象変動とも連動した変化が起こっているのだろう。

繰り返す豪雨被害は線状降水帯によって引き起こされている。洪水や大規模な山崩れも起こると、水害に続いて交通寸断が起こり、状況によっては停電や断水を伴う実態が見られる。一面が泥に覆われた被災地の様子は東日本大震災における広範な津波被害の様子を彷彿とさせられるが、乾燥が進むと呼吸器感染症の問題が出現してくる。断水など衛生的なレベルを維持できない状況下では消化器疾患も問題となり、災害や戦乱につきものである大規模感染症のリスクもすぐにやってくる。

通常の支援や健康管理に加えて、現状では被災地におけるコロナ対策も喫緊の課題である。まさに、通常の災害レベルを超えた複合災害対応が緊急課題の状況となっている。7月7日現在の情報では世界のコロナ感染者1,150万人、死亡者53万人を超えている。水害情報と同時に今回は分散避難が推奨されている。コロナ感染症のリスクを考えれば、公的施設の大型の避難所に大人数を収容する従来の方式では困難だろう。その方式での弱点としては、避難民の全体像把握が困難となり、食料や災害グッズ配布にも難渋することだ。それなら、県庁レベルの災害対策本部と現場事務所の設定だけではなく、もっとコミュニティに近いドッキングステーションを複数開設して、行政に加えて支援に参集する多職種の多機能連携と避難民が接点をもち、地域単位で必要な物資や情報を手に入れることのできるポイントを明示することが有効だろう。広がったそのポイントを繋ぐ情報連携を構築することも必要だ。それによってコロナ対策を被災地で推進することも可能となり、医療や健康支援が被災地のあらゆる先端部にまで巡回する必要がある作業量を減らし、過密を避ける中で必要なサービスを提供することが可能となる。

集住化の都市型社会の弱点は、災害に対して一層脆弱性を持つことだ。その一方で、分散して生活する地方の暮らしだけではまとまった対応を構築することが困難だ。その両者の弱点を克服するためにも、災害時の共通の情報ツールとシステムを創出することは、やがて平時の新しい生活のモデルを拓く作業とも重なるのではないか。

 

巨大な自然の力を目の当たりにするような大災害を前にすると、もう明日は無いのではないかという無力感に捉われることがある。しかし、絶望を胸に残した夜でもやがて朝を迎える。

生命の歴史とはアルベール?カミュの描写するシーシュポスの神話のような無限に続く労苦とは少しだけ異なっている。現世では、歴史的に同じ困難や災害が現れる訳ではないし、それを迎える私たちの側も命をつなぐ事によって、新たなプレーヤーたちに入れ替わりながら全力で立ち向かうことになる。

つまり、時間軸の進行に伴って災害事象は螺旋状に繰り返し起こってくるのであり、生命の連環の側も遺伝子や免疫そして対応力やスキルの面で眼前の変化に対して課題解決を図るのだ。自然が多彩で変化に富み美しい日本においては、それだけ様々なリスク要因が内在し、自然災害のクライシス要因にも満ちている。先ずは眼前の複合的災害状況を正しく理解し、賢い連携から始めることだと考える。

 

【石井 正三(いしい?まさみ)先生 プロフィール】

欧宝体育投注下载 健康社会戦略研究所 所長?客員教授。

医療法人社団正風会石井脳神経外科?眼科病院理事長、地域医療連携推進法人医療戦略研究所 所長代表理事。

いわき市出身。弘前大学大学院医学研究科修了。医学博士。いわき市医師会会長、福島県医師会副会長、日本医師会常任理事、世界医師会副議長、世界医師会財務担当理事を歴任。ハーバード大学公衆衛生大学院国際保健武見プログラム「名誉武見フェロー」、藍綬褒章受章、日本医師会最高優功賞受賞、総務大臣感謝状拝受。69歳。